相続が開始し、相続財産の調査も終わり、返すべき借金もないと思って相続の放棄も限定承認もしなかったというのに、後になって被相続人がある人の”身元保証人になっていた”たばかりに、その人の借金等の支払いを要求されてしまったとしたら・・・?。

 このケースはX銀行がAさんを行員として雇い入れるのに際して甲さんを身元保証人としましたが、甲さんの死亡後9年経った時に、AさんがX銀行のお金約12万円を使い込んでいたことが発覚。本人などが弁償することになったが、まだ3万5000円が足りなかったため、X銀行はAさんの身元保証人であった甲さんの死後、その財産を相続した乙さんに対して(身元)保証債務も承継取得したと主張して残金の3万5000円の支払いを求めたというものです。


 裁判所は「身元保証契約は、保証人の責任が普通の保証債務と異なって広範であり、また、身元保証人と身元本人との相互の信用を基礎として成立するから、身元保証債務は一身専属性をもつ。したがって、特段の事情がない限り、身元保証契約は当事者本人と終始する。保証人の死亡によって相続が開始しても、相続人は保証債務を承継しない。」と判示しました。

 つまり、相続人は身元保証契約まで相続したという訳ではないから、乙はX銀行に対してAが使い込んだ金の肩代わりをする必要はない。ということです。

 しかし、この裁判では身元保証人の相続人が身元を保証される人(身元本人)の債務まで相続するのかしないのかの基準について、
  ①普通の保証債務と異なり広範囲である。
  ②相互の信用(信頼)関係を基礎として成立している。
 という2点を”特段の事情”として挙げています。

 ですから逆に、もし、この2つの条件をクリアしているとしたら、相続人もまた被相続人のした身元保証人の地位を相続により承継する可能性がある(相続によって身元保証人の地位をも受け継いだことになり、身元本人の債務に対しても弁済義務がある)ということです。 具体的には①保証債務の内容が広範囲にわたらない。②身元本人と保証人間にあったのと同様の信用(信頼)関係が身元本人と身元保証人の相続人間にもある。という場合です。


 ・・・相続が始まったら、相続人や相続財産といった目に見えるものだけではなく、この”身元保証契約の有無”のような”目に見えない”ところまでしっかりと調べておかなければ、思わぬところで考えもしなかったことが起こり、あたふたすることにもなりかねません。くれぐれもご注意を・・・。

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